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霧ヶ峰の草原の危機と保全対策

霧ヶ峰の草原の危機と保全対策

ニッッコウキスゲの花に来たマルハナバチ

花々の咲く草原の風景が親しまれてきた霧ヶ峰。それは縄文時代以来の自然とひととのつながりの歴史をとどめる文化遺産でもあります。しかしこの霧ヶ峰の草原の生物多様性は、危機に直面しています。その危機をもたらしている要因は、大きくいって2つあります。

そのひとつは、20世紀の中葉を境に、暮らしのなかで草を資源として利用することがなくなり、火入れや草刈りが次第になされなくなってきたことです。霧ヶ峰の草原は、そうした植生への働きかけがなくなると、ゆっくりと森林化していきます。このようなことは日本の各地でも生じており、草原性の植物や昆虫のなかに絶滅のおそれのある状況となっているものが今では少なくありません。それでも霧ヶ峰ではニッコウキスゲなどの花が咲く草原の景観を守ろうと、地域のひとびとの手で火入れや草刈りがつづけられてきました。その景観は、観光資源として多くの訪問客をもひきつけてきました。けれども地域社会の人口構成の高齢化が進むにつれ、こうした作業をつづけることが次第にむずかしくなってきました。

霧ヶ峰_ニホンジカの足跡 もうひとつの危機は、過去10年あまりのあいだにニホンジカの数が急増し、ニッコウキスゲ、マツムシソウなど美しい花を咲かせるものを中心に、多くの植物が食べられてしまうようになったことです。ニホンジカの増加は日本全国で報告されていますが、霧ヶ峰ではその影響が2007年頃から目立つようになってきたといわれています。
このような状況を踏まえて、保全対策もおこなわれています。草原の花々をニホンジカによる食害から守るため、道路沿いやトレイル沿いにいくつもの電気柵が今では設置されています。これには大きな効果があり、柵の中では柵の外にくらべて植物の種類数も花の数も多く、花を訪れるチョウなどの昆虫も多いことがわかっています。またススキや低木、外来植物を刈り取って多様な在来の草原性植物を守ろうとする活動もつづけられています。このような活動を継続し、さらにその活動の範囲を広げるため、より多くの方々の理解と参加がもとめられています。